北之園 拓
高分子を活用するユビキチン選択的認識・標識法の開発
研究代表者 北之園 拓東京大学理学系研究科化学専攻 有機合成化学研究室 助教 |
研究概要
近年、分子認識化学や有機合成技術の高度化を背景に、天然タンパク質の化学修飾による機能化・標識化に向けて世界中で熾烈な技術開発競争が繰り広げられています。殊にタンパク質修飾技術についてはpH、温度、水中での機能性など生体条件適合性を満たすことが求められ、且つ低濃度でも反応が進行し、高い官能基選択性を実現する確実性もまた必須であるという難度の高さから、技術開発の基盤はより制御し易い小分子・均一系条件に限られていました。一方で小分子ではタンパク質のような巨大分子に対する分子認識に限界があるため、高いリガンド認識能と組み合わせることで近傍の化学修飾を狙うリガンド指向戦略が開発されています。
しかしながらユビキチン化タンパク質はプロテアソームによる分解や脱ユビキチン化酵素の影響を受けるため存在量は僅少であり、効率的にユビキチン化タンパク質を検出することは困難とされています。これまでにユビキチン高親和性結合タンパク質を活用するポリユビキチン鎖認識法が開発されていますが、普遍的に設計の柔軟性や効率性を確保することに課題がありました。一方、複数の官能基を導入した高分子は多点認識により広い表面を認識する潜在性を有しており、ユビキチンのように存在量が少なく小さいタンパク質に対しても有効であると考えられます。そこで本研究では、ユビキチンの表面特性を認識できるランダム共重合ポリマーを合成するアプローチを通じ、小分子を基盤とする従来法ではできなかったユビキチン選択的な分子認識、延いてはユビキチン表面選択的な化学修飾技術の確立を目指します。
私たちはこれまでに水中で機能する触媒開発を主テーマとして推進しており、酵素機能が水中でこそ発揮されるように、有機溶媒中では実現できない「水中ならでは」の有機化学を開拓・体系化すべく研究開発に取り組んでいます。タンパク質に関する知見はほぼ皆無ですが、水中での特異的な触媒作用、自己組織化などの分子挙動、分子認識に関する知見を多数有しており、これらの知見を総動員することで革新的なユビキチンケモテクノロジーの創出に貢献したいと考えています。
研究概要を示す模式図
本領域での研究成果
- *Kitanosono T, Hisada T, Yamashita Y, Kobayashi S.
Hydrogen-Bonding-Assisted Cationic Aqua Palladium(II) Complex Enables Highly Efficient Asymmetric Reactions in Water.
Angew. Chem. Int. Ed.60, 3407-3411 (2021)
PMID: 33124701
代表的な論文
- Kitanosono T, Zhu L, Liu C, Xu P, *Kobayashi S.
An Insoluble Copper(II) Acetylacetonate−Chiral Bipyridine Complex that Catalyzes Asymmetric Silyl Conjugate Addition in Water.
J. Am. Chem. Soc. 137, 15422-15425 (2015)
PMID: 26646601 - Liu Z, Lebrun V, Kitanosono T, Mallin H, Köhler V, Häussinger D, Hilvert D, Kobayashi S, Ward TR.
Upregulation of an Artificial Zymogen by Proteolysis.
Angew. Chem. Int. Ed. 55, 11587-11590 (2016)
PMID: 27529471 - Kitanosono T, Miyo M, *Kobayashi S.
Surfactant-aided chiral palladium(II) catalysis exerted exclusively in water for the C–H functionalization of indoles.
ACS Sustainable Chem. Eng. 4, 6101-6106 (2016) - Kitanosono T, Masuda K, Xu P, *Kobayashi S.
Catalytic Organic Reactions in Water toward Sustainable Society.
Chem. Rev. 118, 679-746 (2018)
PMID: 29218984 - Kitanosono T, Xu P, *Kobayashi S.
Chiral Lewis acids integrated with single-walled carbon nanotubes for asymmetric catalysis in water.
Science 362, 311-315 (2018)
PMID: 30337405