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領域概要

About Our Domain

本領域設立の目的

ユビキチン修飾系は、76アミノ酸からなる真核生物に高度に保存されたタンパク質であるユビキチンを付加することにより、細胞内でタンパク質の機能を制御する翻訳後修飾系である。タンパク質分解系の一部として発見された経緯から「ユビキチン」=「分解」として研究が発展し、2004年にはユビキチン依存性タンパク質分解系の発見者たちにノーベル賞が授与されるに至った。

しかしながら、現在ではユビキチンは分解に留まらず、実に多様な役割を果たすことが明確となっている。ユビキチン修飾系にはユビキチンが1個結合するモノユビキチン化やユビキチンモノマーがタンパク質に複数箇所結合するマルチプルモノユビキチン化が存在する。しかし、ユビキチン修飾が他の翻訳後修飾と大きく異なる特徴は、ユビキチンが数珠状に連なったポリマーであるポリユビキチン鎖としてタンパク質の機能を制御することがほとんどである点にある(図1)。

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図1 多彩なユビキチン修飾とその機能

ユビキチン分子内に7個存在するリジン(K6、K11、K27、K29、K33、K48、K63)、およびN末端のメチオニン(M1)を介した8種のユビキチン間結合が報告されており、細胞内にはこれらの多様な構造を持つポリユビキチン鎖が存在することが知られている(図1)。ポリユビキチン鎖の種類によってタンパク質の制御様式が異なることから、ポリユビキチン鎖の構造的多様性はユビキチン修飾系が多彩な機能を果たし得る分子基盤であると考えられている (図1)。ユビキチン間結合が一様ではない混合鎖、分岐鎖の存在も示唆されており、さらには、ユビキチン分子自身の修飾の存在も示されている。このような多彩なユビキチン修飾を本領域では「ユビキチンコード」と呼称する。これらのユビキチン修飾の中には未だ機能が知られていない修飾も存在していることから、今後もユビキチンによる新たな生命現象制御機構が次々と明らかになると考えられ、生命科学におけるユビキチン修飾系の重要性は益々拡大すると想定される。加えて、ユビキチン研究に必要な研究手法は多様化し、高度な解析手法が要求されつつある。したがって、もはや1つの研究室でその全てに対応するのは不可能な状況にある。


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本領域の研究の進め方

ユビキチン修飾系はE1(活性化酵素)/E2(結合酵素)/E3(ユビキチンリガーゼ)の3種の酵素群から構成され、多数存在するE3(ヒトでは約600種類)が状況に応じて選択的に識別する標的タンパク質に次々とユビキチンを付加してポリユビキチン鎖を生成する(図1)。この過程で生成される多様なユビキチン修飾によるユビキチンコードの情報が、特異的な識別ドメインを持つユビキチン識別タンパク質群に認識されることにより読み解かれ(デコード)、多彩な生理機能を発揮する。また、ポリユビキチン結合を切断する脱ユビキチン化酵素(約100種類)によってもその機能が調節される。

本領域では、
研究項目
A01「ユビキチン修飾系による生体制御機構」
A02「ユビキチン修飾の識別、検出法の開発とその応用」
を設け、構造・機能の両面からのアプローチにより、新時代のユビキチン研究:ユビキチンネオバイオロジーを展開する。そのためにはまず、ポリユビキチン鎖をはじめとした構造的に多様なユビキチンコードの選択的生成・解読・切断の分子機構とユビキチンコードによる新たな生命現象制御機構の理解が不可欠である。

そこで
1. 分解研究を通して蓄積してきたユビキチン研究のノウハウを生かして研究を進めるとともに、研究項目A02のメンバーを中心に将来のユビキチン研究に必須な世界トップレベルの新規ユビキチン研究試料・手法の確立を進める。

その上で、
2. 研究項目A01のメンバーが中核となって本領域で確立する最先端の手法を用いた解析を行ってそれらの有用性の検討を進めるとともに、開発した新規解析技法を用いてユビキチン修飾系による生命現象制御機構の研究を深化させる。

各計画研究の研究内容は図2に示すとおりである。

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図2 本領域の基本的な研究戦略

さらに、
3. 本領域の生命機能制御研究で新たに見出された知見を新しいユビキチン研究ツールの開発にフィードバックするなど領域内で有機的な連携研究を展開し、本領域の終了時には、我が国のライフサイエンス研究に不可欠な世界レベルのユビキチン解析手法の確立と、それを活用したユビキチンコードによる新たな生体制御機構の解明を目指す (図2)。

4. 世界中で抗ガン剤を中心に様々なユビキチン創薬が進展していることを鑑みれば、本領域の発展は創薬シーズを生み出すばかりか、開発する研究インフラは創薬研究にとっても有益なツールを提供すると考えられる。


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公募研究班の役割と研究支援活動

ユビキチン修飾系は多彩な生命現象を制御しており、今後もその生命科学における役割は拡大すると考えられる。したがって、その広汎な役割の全てを計画研究のみで網羅することは困難である。

そこで、公募研究では以下の4点に留意しつつ研究を推進する。

  1. ユビキチン修飾系の新たな関与が示されるオリジナルなバイオロジー研究!
  2. 本領域で開発する高度なユビキチンプラットフォームを活用することにより世界をリード・席巻するようなポテンシャルの高い研究!
  3. 計画研究ではカバーできないユビキチン修飾系の新規解析技法の開発!
  4. 計画研究者がテーマとしている動物のみならず、植物・微生物研究者の参入を歓迎!

総括班に計画研究代表者が責任者となる研究情報交換窓口を設置して、計画研究・公募研究の区別なく、領域内共同研究の推進と研究支援を行う。領域で開発された解析技術の周知、領域内で見出された研究成果の新規研究手法の開発への応用を弾力的に進め、領域内で生み出された成果を有機的かつ迅速に利用できる体制を構築する。また、主要学会でのシンポジウム及び国際シンポジウムを開催したり、国際学会に参加して収集した最新の情報をホームページや電子メールで領域に迅速に周知して、世界の趨勢を睨みつつ領域の発展を目指す。


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